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リコーGRⅢからGRⅣへ──ストリートで感じる進化
9月12日、リコーから待望のGRⅣが発売されました。予約が殺到し、品薄状態のようですね。もう手にされている方がいれば、羨ましい限りです。 GRⅢの時点で、すでに「ストリートフォト用カコンパクトカメラ」として完成度は十分でした。そこから更にブラッシュアップされたのはどのあたりなのか──。まだ実物に触れていない私ですが、スペック表や作例から進化を想像していきましょう。これは、カメラが好きな方にはわかってもらえると思いますが、とても楽しい時間なのです。 今回は特に気になる変更点を、感じるままに語ってみます。 新レンズによる「空気を感じる立体感のある描写」 見た目はほとんど相変わらず、換算焦点距離も同じく28mmですが、レンズは新設計のF2.8レンズ。作例を見る限り空気の描写が変わったように感じます。GRⅢのドライで静謐な空気感も好きでしたが、GRIVはそこに“呼吸”が加わったとでも言ったら良いでしょうか。光の輪郭が円らかになって、被写体がしっとり浮かび上がるような立体感のある描写が印象です。街角での一瞬に漂う“湿度”を感じるような、そんな深みのある描写になっているように感じます。 AF速度と“その一瞬”への安心感 GRⅢでも実用には全く問題がないと言って良い速度のAFでしたが、GRⅣはさらにAFも、更には起動も速くなっているようです。ポケットから取り出して、カメラを起動して、被写体にピントを合わせて、シャッターを切る。この一連の動作がどれだけスムーズに短い時間で行えるかというのはスナップカメラにとっては非常に重要な機能です。たかが、1秒2秒程度の違いであっても、一瞬の表情や光を拾える確率は明確に変わるのです。例えば撮れる枚数が5%増えるとしたら、それだけで買い替えの価値があると言っても過言ではないでしょう。 手ブレ補正の進化が広げる夜の表現 不要という方もいますが、やはり手ブレ補正はありがたいものです。GRⅢでは3軸4段分の手ぶれ補正でしたが、GRⅣではそれが5軸6段分へと進化。夜の街を歩きながら、わずかな街灯や看板の光だけで切り取るスローシャッターのスナップなどが、かなり撮りやすくなっているはずです。ブレを“消す”だけでなく、“表現方法の幅が広がる”のです。 ホールド感のわずかな軽さと操作感 性能ではないかもしれませんが──ボディのグリップがほんの僅かに浅く、シボの表情が増したように見えます。カメラをホールドした時の「しっかりとグリップ出来ている」という安心感はストリートフォトのカメラとしてはかなり重要なことだと思います。ポケットから出した瞬間に手と一体となるような感覚が出ているとすればそれは間違いなく“進化”だと言って良いでしょう。写真を撮る行為をより“無意識化”してくれる、そんなイメージでしょうか。 結局、GRⅣとは何なのか 画素数アップや、USB-C、内蔵メモリ53GBなど他にも変更点は色々とありますが、私が特に気になったのは上記の点です。 レンズの描写に“湿度”が宿り、AFと起動の速さが「届く一瞬」を増やし、手ブレ補正が夜の自由度を広げる。そして身体とカメラが一体となるようなフィーリング。そんな要素が積み重なって、ストリートを歩く時間の密度を、GRⅣはほんの少し上げてくれそうな予感があります。スナップを撮る頻度、撮影の“硬度”──そういったものを微かに、しかし確かに、一段上に引き上げてくれるような気がするのです。
リコーGRⅢからGRⅣへ──ストリートで感じる進化
9月12日、リコーから待望のGRⅣが発売されました。予約が殺到し、品薄状態のようですね。もう手にされている方がいれば、羨ましい限りです。 GRⅢの時点で、すでに「ストリートフォト用カコンパクトカメラ」として完成度は十分でした。そこから更にブラッシュアップされたのはどのあたりなのか──。まだ実物に触れていない私ですが、スペック表や作例から進化を想像していきましょう。これは、カメラが好きな方にはわかってもらえると思いますが、とても楽しい時間なのです。 今回は特に気になる変更点を、感じるままに語ってみます。 新レンズによる「空気を感じる立体感のある描写」 見た目はほとんど相変わらず、換算焦点距離も同じく28mmですが、レンズは新設計のF2.8レンズ。作例を見る限り空気の描写が変わったように感じます。GRⅢのドライで静謐な空気感も好きでしたが、GRIVはそこに“呼吸”が加わったとでも言ったら良いでしょうか。光の輪郭が円らかになって、被写体がしっとり浮かび上がるような立体感のある描写が印象です。街角での一瞬に漂う“湿度”を感じるような、そんな深みのある描写になっているように感じます。 AF速度と“その一瞬”への安心感 GRⅢでも実用には全く問題がないと言って良い速度のAFでしたが、GRⅣはさらにAFも、更には起動も速くなっているようです。ポケットから取り出して、カメラを起動して、被写体にピントを合わせて、シャッターを切る。この一連の動作がどれだけスムーズに短い時間で行えるかというのはスナップカメラにとっては非常に重要な機能です。たかが、1秒2秒程度の違いであっても、一瞬の表情や光を拾える確率は明確に変わるのです。例えば撮れる枚数が5%増えるとしたら、それだけで買い替えの価値があると言っても過言ではないでしょう。 手ブレ補正の進化が広げる夜の表現 不要という方もいますが、やはり手ブレ補正はありがたいものです。GRⅢでは3軸4段分の手ぶれ補正でしたが、GRⅣではそれが5軸6段分へと進化。夜の街を歩きながら、わずかな街灯や看板の光だけで切り取るスローシャッターのスナップなどが、かなり撮りやすくなっているはずです。ブレを“消す”だけでなく、“表現方法の幅が広がる”のです。 ホールド感のわずかな軽さと操作感 性能ではないかもしれませんが──ボディのグリップがほんの僅かに浅く、シボの表情が増したように見えます。カメラをホールドした時の「しっかりとグリップ出来ている」という安心感はストリートフォトのカメラとしてはかなり重要なことだと思います。ポケットから出した瞬間に手と一体となるような感覚が出ているとすればそれは間違いなく“進化”だと言って良いでしょう。写真を撮る行為をより“無意識化”してくれる、そんなイメージでしょうか。 結局、GRⅣとは何なのか 画素数アップや、USB-C、内蔵メモリ53GBなど他にも変更点は色々とありますが、私が特に気になったのは上記の点です。 レンズの描写に“湿度”が宿り、AFと起動の速さが「届く一瞬」を増やし、手ブレ補正が夜の自由度を広げる。そして身体とカメラが一体となるようなフィーリング。そんな要素が積み重なって、ストリートを歩く時間の密度を、GRⅣはほんの少し上げてくれそうな予感があります。スナップを撮る頻度、撮影の“硬度”──そういったものを微かに、しかし確かに、一段上に引き上げてくれるような気がするのです。
写真における“距離感”とは? 28mm・50mm・85mmの単焦点レンズ比較
スナップを続けていると焦点距離ごとの「距離感」に気がつくようになってくる。それは単なる物理的な距離だけでなく、撮り手と被写体との“関係性”も写す。 28mm、50mm、85mm──今、私が持ち歩いている3本の単焦点レンズにも当然それぞれの異なる哲学がある。 28mmは、やや俯瞰的で冷静な視野を与えてくれる。惹かれた被写体に出会った時には、ぐっと近づかなければ、或いはそれは「その他」の中に埋もれてしまうかもしれない。だからこのレンズでは、距離を縮めるという“行為”そのものが写真に写る。 50mmは“自然な距離”と言われることが多い。けれどそれは、最も“曖昧な距離”かもしれない。寄りきれず、引ききれず、揺れるような立ち位置。そして、その曖昧さが写る。近すぎず、遠すぎない距離にだけ現れる景色。 85mmは、やや離れた距離からの視点。撮り手の選別が鮮明になりやすい。被写体の世界に入り込まずに外から撮られた写真は自然であると同時に「断絶」が存在する。そうした距離感は、写真に不思議な安定感を与える。 距離を詰めることで得られる親密さもあれば、距離をとることで立ち現れる関係性もある。それは人間関係と似ている。正しい距離感というものがあるわけではない。その時その場所でどう関わるか、その選択が写真になる。
写真における“距離感”とは? 28mm・50mm・85mmの単焦点レンズ比較
スナップを続けていると焦点距離ごとの「距離感」に気がつくようになってくる。それは単なる物理的な距離だけでなく、撮り手と被写体との“関係性”も写す。 28mm、50mm、85mm──今、私が持ち歩いている3本の単焦点レンズにも当然それぞれの異なる哲学がある。 28mmは、やや俯瞰的で冷静な視野を与えてくれる。惹かれた被写体に出会った時には、ぐっと近づかなければ、或いはそれは「その他」の中に埋もれてしまうかもしれない。だからこのレンズでは、距離を縮めるという“行為”そのものが写真に写る。 50mmは“自然な距離”と言われることが多い。けれどそれは、最も“曖昧な距離”かもしれない。寄りきれず、引ききれず、揺れるような立ち位置。そして、その曖昧さが写る。近すぎず、遠すぎない距離にだけ現れる景色。 85mmは、やや離れた距離からの視点。撮り手の選別が鮮明になりやすい。被写体の世界に入り込まずに外から撮られた写真は自然であると同時に「断絶」が存在する。そうした距離感は、写真に不思議な安定感を与える。 距離を詰めることで得られる親密さもあれば、距離をとることで立ち現れる関係性もある。それは人間関係と似ている。正しい距離感というものがあるわけではない。その時その場所でどう関わるか、その選択が写真になる。
中央線の西側、西荻窪に響く音
西荻窪は、長らく「地味な街」だったと思う。高円寺や阿佐ヶ谷のような知名度はなく、他エリアから訪れる人もごく限られていた。それがこの街の魅力でもあった。ローカルな静けさ、”外部から切り離された”時間の中にいた。 ところが最近、西荻窪にも変化が訪れている。駅前には大規模なサウナ施設ができ、ライブハウスやクラフトビールの店もオープン。それら新しい街の顔を目当てに「観光」している人の姿を見かけることも増えてきた。 それでもまだこの街に独特の空気は十分残っている。 新しくできた場所にも、どこか“外部から切り離された”空気が漂っている。外の世界に流されることなく構築された空間は不可侵にも見える。 駅から少し歩けばもちろん、昔ながらの花屋や古書店、アンティーク家具の店が点在している。そこに住む人たちの生活が型抜きされて物質化したような街並みだ。 この日、着けたのはSEIKO「Asie」のシルバーダイヤルモデル。 フランス語で「鋼鉄」を意味する“acier”に由来する名前を持つこのモデルは、その名にふさわしく、ステンレスブレスとケースが一体になったような直線的で冷ややかな質感。文字盤はシルバーのヘアライン仕上げ。光の角度によって金属的にも柔らかくも見える絶妙なトーンで、時代を超えて通用する品格がある。現代のSEIKOではあまり見かけない“彫刻的な工業美”が宿っている。 この日も、特に目的を定めることもなく、写真を撮りながら街のあちらこちらを行ったり来たり。角を曲がるたびに何かが“そこにある”。カメラを構えるまでに少しの時間でそれは消えてしまうこともある。何が撮りたいのかなんてはっきりしていない。 変わらないものに惹かれる気持ちは、変わっていくものに抗う気持ちと紙一重だ。時代に流されたくないという気持ちも、いつかは時代の中に沈む。西荻窪の街を歩いていると、そんなことを考える。
中央線の西側、西荻窪に響く音
西荻窪は、長らく「地味な街」だったと思う。高円寺や阿佐ヶ谷のような知名度はなく、他エリアから訪れる人もごく限られていた。それがこの街の魅力でもあった。ローカルな静けさ、”外部から切り離された”時間の中にいた。 ところが最近、西荻窪にも変化が訪れている。駅前には大規模なサウナ施設ができ、ライブハウスやクラフトビールの店もオープン。それら新しい街の顔を目当てに「観光」している人の姿を見かけることも増えてきた。 それでもまだこの街に独特の空気は十分残っている。 新しくできた場所にも、どこか“外部から切り離された”空気が漂っている。外の世界に流されることなく構築された空間は不可侵にも見える。 駅から少し歩けばもちろん、昔ながらの花屋や古書店、アンティーク家具の店が点在している。そこに住む人たちの生活が型抜きされて物質化したような街並みだ。 この日、着けたのはSEIKO「Asie」のシルバーダイヤルモデル。 フランス語で「鋼鉄」を意味する“acier”に由来する名前を持つこのモデルは、その名にふさわしく、ステンレスブレスとケースが一体になったような直線的で冷ややかな質感。文字盤はシルバーのヘアライン仕上げ。光の角度によって金属的にも柔らかくも見える絶妙なトーンで、時代を超えて通用する品格がある。現代のSEIKOではあまり見かけない“彫刻的な工業美”が宿っている。 この日も、特に目的を定めることもなく、写真を撮りながら街のあちらこちらを行ったり来たり。角を曲がるたびに何かが“そこにある”。カメラを構えるまでに少しの時間でそれは消えてしまうこともある。何が撮りたいのかなんてはっきりしていない。 変わらないものに惹かれる気持ちは、変わっていくものに抗う気持ちと紙一重だ。時代に流されたくないという気持ちも、いつかは時代の中に沈む。西荻窪の街を歩いていると、そんなことを考える。
写真用プリンターと用紙の選び方|染料インク・顔料インクと光沢紙・アート紙の魅力
写真用プリンターには大きく分けて「染料インク」と「顔料インク」の2種類があります。染料インクは発色が鮮やかで階調もなめらか。特に光沢紙との相性が良く、アルバムやスナップ写真を“写真らしい仕上がり”で楽しめます。一方の顔料インクは保存性に優れ、紫外線や湿気にも強いのが特徴です。マット紙やファインアート紙に印刷すると、紙の質感そのものが作品性を高め、まさに“飾るためのプリント”になります。 用紙選びも仕上がりを大きく左右します。光沢紙は鮮やかで華やか、半光沢紙は落ち着いたトーンで展示にも向きます。マット紙は反射が少なく自然な質感で、文章やイラストとの組み合わせにも使いやすい。そしてファインアート紙は、ハーネミューレやイルフォードといった世界的ブランドが代表的で、厚みや繊維感が写真にもう一層の深みを与えます。一般的な店頭プリントとの差を最も強く感じられるのは、このファインアート系でしょう。 印刷作品を飾ったり個展を開くことを想定するなら、特に顔料プリンターがおすすめです。マット系のアート紙にプリントした際の絵画のような仕上がりは、染料プリンターでは得にくい質感です。光沢紙への出力も十分美しく、染料タイプに大きく劣るということはありません。 プリントのステップとしては、まず純正の光沢紙で基本を押さえ、次に半光沢やマットを試し、最後にアート紙に挑戦するのがおすすめ。アート紙は1枚数百円とやや高価ですが、作品としての存在感は格別です。失敗しても経験になりますから、恐れず挑戦してみることでプリントの楽しみは大きく広がります。
写真用プリンターと用紙の選び方|染料インク・顔料インクと光沢紙・アート紙の魅力
写真用プリンターには大きく分けて「染料インク」と「顔料インク」の2種類があります。染料インクは発色が鮮やかで階調もなめらか。特に光沢紙との相性が良く、アルバムやスナップ写真を“写真らしい仕上がり”で楽しめます。一方の顔料インクは保存性に優れ、紫外線や湿気にも強いのが特徴です。マット紙やファインアート紙に印刷すると、紙の質感そのものが作品性を高め、まさに“飾るためのプリント”になります。 用紙選びも仕上がりを大きく左右します。光沢紙は鮮やかで華やか、半光沢紙は落ち着いたトーンで展示にも向きます。マット紙は反射が少なく自然な質感で、文章やイラストとの組み合わせにも使いやすい。そしてファインアート紙は、ハーネミューレやイルフォードといった世界的ブランドが代表的で、厚みや繊維感が写真にもう一層の深みを与えます。一般的な店頭プリントとの差を最も強く感じられるのは、このファインアート系でしょう。 印刷作品を飾ったり個展を開くことを想定するなら、特に顔料プリンターがおすすめです。マット系のアート紙にプリントした際の絵画のような仕上がりは、染料プリンターでは得にくい質感です。光沢紙への出力も十分美しく、染料タイプに大きく劣るということはありません。 プリントのステップとしては、まず純正の光沢紙で基本を押さえ、次に半光沢やマットを試し、最後にアート紙に挑戦するのがおすすめ。アート紙は1枚数百円とやや高価ですが、作品としての存在感は格別です。失敗しても経験になりますから、恐れず挑戦してみることでプリントの楽しみは大きく広がります。
写真プリント入門記|試行錯誤から見つける“自分の正解”
写真を続けていると、いつか「写真をプリントしてみたい」と思う瞬間がやってくる。モニターで眺めていた一枚を紙に定着させ、手触りや重みを感じたくなるのだ。しかし、いざ始めようとすると、プリンターの選び方や用紙選び、色合わせ(カラーマネジメント)など、戸惑うことも多いだろう。 まず伝えたいのは、「完璧を求める必要はない」ということ。私は15年ほど前にCanonのPro-10を使い始めたが、もちろん当初から色合わせや用紙選びに詳しかったわけではない。光沢紙で安っぽい仕上がりになってしまったこともあれば、マット紙で想像以上に色が沈んでしまったこともある。その試行錯誤を重ねるうちに、自分の好みや“正解”が少しずつ形になっていった。これこそが、写真プリントの大きな楽しみの一つだ。 色を正確に再現しようと思えばキャリブレーション用モニターが必要になるが、最初からそこまで構える必要はない。特にMacBookのディスプレイは初期状態でも発色の安定性が高く、多くのケースで十分実用に耐える。本格的に色合わせを突き詰めたい段階になったら、専用モニターや測定器を導入すれば良い。 用紙は写真の印象を大きく変える要素だ。光沢紙、半光沢紙、マット紙──それぞれの質感と発色の違いは、自分で同じ写真を複数の用紙でプリントして比べることで初めてわかると言っても良い。この経験は、プリントの魅力を何倍にもしてくれる。 プリントは、撮影の先に新たな“完成の瞬間”を与えてくれる。パソコンの中の一枚が、紙の上で初めて呼吸を始めるような感覚だ。写真プリントやプリンター選び、用紙選びに迷っているなら、まずは一歩踏み出してみることをおすすめする。
写真プリント入門記|試行錯誤から見つける“自分の正解”
写真を続けていると、いつか「写真をプリントしてみたい」と思う瞬間がやってくる。モニターで眺めていた一枚を紙に定着させ、手触りや重みを感じたくなるのだ。しかし、いざ始めようとすると、プリンターの選び方や用紙選び、色合わせ(カラーマネジメント)など、戸惑うことも多いだろう。 まず伝えたいのは、「完璧を求める必要はない」ということ。私は15年ほど前にCanonのPro-10を使い始めたが、もちろん当初から色合わせや用紙選びに詳しかったわけではない。光沢紙で安っぽい仕上がりになってしまったこともあれば、マット紙で想像以上に色が沈んでしまったこともある。その試行錯誤を重ねるうちに、自分の好みや“正解”が少しずつ形になっていった。これこそが、写真プリントの大きな楽しみの一つだ。 色を正確に再現しようと思えばキャリブレーション用モニターが必要になるが、最初からそこまで構える必要はない。特にMacBookのディスプレイは初期状態でも発色の安定性が高く、多くのケースで十分実用に耐える。本格的に色合わせを突き詰めたい段階になったら、専用モニターや測定器を導入すれば良い。 用紙は写真の印象を大きく変える要素だ。光沢紙、半光沢紙、マット紙──それぞれの質感と発色の違いは、自分で同じ写真を複数の用紙でプリントして比べることで初めてわかると言っても良い。この経験は、プリントの魅力を何倍にもしてくれる。 プリントは、撮影の先に新たな“完成の瞬間”を与えてくれる。パソコンの中の一枚が、紙の上で初めて呼吸を始めるような感覚だ。写真プリントやプリンター選び、用紙選びに迷っているなら、まずは一歩踏み出してみることをおすすめする。
写真を通して世界を見る|“自律した視点”
写真とは、世界を切り取る行為だ。それは撮り手の視点によって定まる。では、その視点はどこから来るのか。 他者と違う視点を持つことが「個性」として語られることがある。だが、視点の自律とは奇抜さや差異の大きさを競うことではない。 自分の感受性に忠実であること。何に惹かれ、何を排除するのか。どこに立つのか、見上げるのか、見下ろすのか。そうした選択のすべてが「視点」となる。 誰もがカメラを持ち、写真が溢れる時代に視点の希少性は失われたように思えるかもしれない。しかし、「自律した視点」を持っているかどうかを写真は残酷なほどに顕在化させる。曖昧なものに惹かれた時には、その曖昧さに誠実であること≒ファジーを許容することが重要だろう。 世界は二元的に成立していない。 世界はグラデーションで描かれているのだ。「世の中」や「大衆」に迎合することなく、そのグラデーションを俯瞰する視点こそが「自律した視点」となり、写真の中に現れるのである。
写真を通して世界を見る|“自律した視点”
写真とは、世界を切り取る行為だ。それは撮り手の視点によって定まる。では、その視点はどこから来るのか。 他者と違う視点を持つことが「個性」として語られることがある。だが、視点の自律とは奇抜さや差異の大きさを競うことではない。 自分の感受性に忠実であること。何に惹かれ、何を排除するのか。どこに立つのか、見上げるのか、見下ろすのか。そうした選択のすべてが「視点」となる。 誰もがカメラを持ち、写真が溢れる時代に視点の希少性は失われたように思えるかもしれない。しかし、「自律した視点」を持っているかどうかを写真は残酷なほどに顕在化させる。曖昧なものに惹かれた時には、その曖昧さに誠実であること≒ファジーを許容することが重要だろう。 世界は二元的に成立していない。 世界はグラデーションで描かれているのだ。「世の中」や「大衆」に迎合することなく、そのグラデーションを俯瞰する視点こそが「自律した視点」となり、写真の中に現れるのである。