スナップを続けていると焦点距離ごとの「距離感」に気がつくようになってくる。それは単なる物理的な距離だけでなく、撮り手と被写体との“関係性”も写す。
28mm、50mm、85mm──今、私が持ち歩いている3本の単焦点レンズにも当然それぞれの異なる哲学がある。
28mmは、やや俯瞰的で冷静な視野を与えてくれる。惹かれた被写体に出会った時には、ぐっと近づかなければ、或いはそれは「その他」の中に埋もれてしまうかもしれない。だからこのレンズでは、距離を縮めるという“行為”そのものが写真に写る。
50mmは“自然な距離”と言われることが多い。けれどそれは、最も“曖昧な距離”かもしれない。寄りきれず、引ききれず、揺れるような立ち位置。そして、その曖昧さが写る。近すぎず、遠すぎない距離にだけ現れる景色。
85mmは、やや離れた距離からの視点。撮り手の選別が鮮明になりやすい。被写体の世界に入り込まずに外から撮られた写真は自然であると同時に「断絶」が存在する。そうした距離感は、写真に不思議な安定感を与える。
距離を詰めることで得られる親密さもあれば、距離をとることで立ち現れる関係性もある。それは人間関係と似ている。正しい距離感というものがあるわけではない。その時その場所でどう関わるか、その選択が写真になる。