スナップの定番アドバイスに「もう一歩前へ」というのがある。
大きな前提として、もちろん写真に正解はない。
それでも私は、これは良い助言ではないかと思っている。
撮りたい被写体があったら、まずは近づけるところまでは近づいてみる、というのは自然な行為だろう。
単純に、大きく写るからではない。
画面いっぱいに被写体が収まるからとも違う。
近づいて撮った写真には、何かが“宿る”ような気がする。
それは、
“空気”なのかもしれない。
“緊張感”なのかもしれない。
あるいは周波数に由来する物理的な何か、としても良いかもしれない。
レンズの焦点距離の話でもない。
望遠レンズで大きく写すことはできる。
あとからトリミングすることだってできる。
しかし、それでも物理的に近づいた写真にだけ“宿る”ものがある。
撮影者と被写体の距離そのものが写っていると解釈しても良いだろう。
距離が遠いよりも近い方が良いとも限らないけれど、近い方がポテンシャルが高いのかもしれない。
だから、「もう一歩前へ」という助言を私もしようと思う。
まず近づいてみる。
そうすると、被写体がよく見える。
人の表情の微かな動きが見える。
植物の産毛が見える。
鏡に残った指紋が見える。
それは写真には写らないかもしれない。
しかし、存在している。
それでも近づいたことで感知出来た、それらの存在そのものが写真に何かを与えるのかもしれない。
だから私は、まず近づいてみることを勧める。
近づいた経験がある「ここは離れよう」という判断は、きっとそうでない場合よりも精度が高い。
最初から遠い距離に立っていては、自分にとって本当に必要な距離が見えてき難い。
写真には距離が写る。
被写体との距離。
世界との距離。
今の自分との距離。
「もう一歩前へ」。
技術論ではなく些細な提案として。