写真を始めるときにまず覚えることのひとつに
シャッタースピードがある。
速くすればブレが止まり、遅くすれば光を多く取り込める。
f値、ISOと合わせて、まず理解しなくてはいけな
い概念であり、それを知ることでカメラについて
詳しくなったような気がした。
1/1000秒で切れば、動いているものは止まる。
1/10秒で切れば、被写体は流れる。
シャッタスピードひとつで、写真の見え方は大き
く変わる。
撮影を重ねるうちにシチュエーションによってブ
レないシャッタスピードがわかってくる。
動きが少ない場面なら1/60、日常的な動きなら
1/250、スポーツに類する場合は1/1000、
1/2000、のような具合に。
更にしばらく撮っていくと、また少し違う感
覚も出てくる。
同じブレていない写真でも1/100と1/1000では受
ける印象が異なるのだ。
見た目には、どちらも止まっている。
画像を拡大していっても、ブレている箇所は見当たらない。
それでも、どこか違う。
違いを明確に言語化することは出来ないけれど、
確かに違う。
1/1000秒の写真は、どこか無機的だ。
モノとモノの境界は明瞭で、動きは断ち切られている。
そこから感じられるのは、切断された一瞬だ。
一方、1/100秒の写真は、曖昧さをはらむ。
ブレてはいないけれど、
わずかに時間の気配が残っている。
“物語の残滓”と言っても良いかもしれない。
そこに漂っていた空気のようなものが、画面の中
に滞留している。
同じように止まって見える写真でも、
そこに含まれている時間は違う。
シャッタースピードは、
単にブレを制御するためのものではない。
どこまで時間を削り取るか。
あるいは、
どれだけ時間を許容するのか。
その選択なのだ。
写真は瞬間を写すと言われる。
しかし実際には、
完全な瞬間など存在しない。
どんなに速いシャッターでも、
そこには必ず時間が含まれている。
そして、そのわずかな時間の違いは、
写真の質感を変える。
1/1000秒は、時間を鋭く切り捨てる。
1/100秒は、時間を少し大らかに受け止める。
どちらが正しいという話ではない。
ただ、その違いは認識しておいた方が良い。
シャッターは、空間を切り取っているのではな
く、実際には時間を切りとっている。