中央線の駅の中で、阿佐ヶ谷は幾らかの「静謐」を抱いている。駅前から続く商店街には活気がある。しかしそれは生活に根付いたブルースのように煩くない。
老舗のアジアレストランに花屋、金物店を過ぎるとロースターやジェラテリアといった比較的新しいお店が少しずつ合流してくる。駅から遠くない場所で「住宅地」が感じられるのもこの街の特徴だろう。
ふと目をやると、壁に貼られたポスターが風に吹かれている。「昔風」の色彩を狙っているのだと思うけれど、それは「現在」に既に溶け込んでいる。この日は気温が高く、日の当たるところを歩いているとかなり汗をかいた。コンビニでドリンクを買って高架下のベンチで休憩を取る。
少し話はそれるけれど、街に写真を撮りに出る際、私は必ず腕時計をする。時間を見るためというよりは「儀式」に近い。この日着けていたのはセイコーの「Asie」というシリーズの一本。過去の短い期間に展開されたラインで、凝った造りのステンレスブレスとブルーグレーの文字盤が特徴的なモデル。腕時計の中でも特に1970〜1980年頃のクォーツ時計が好きだ。そこに思想が感じられる。
しばらく休んで再び阿佐ヶ谷の街を撮って歩く。この日は工事中の場所も多かった。私の写真には所謂肉体労働者の姿が割と多いと思う。プロレタリア写真かもしれない。
強い日差しがつくる電線の影、高架下を行く作業車、咲き始めた紫陽花の花。どこにでもあるような風景がこの街にもある。
そういったものこそ撮りそびれてはいけないような気がする。