高円寺では、口数は少ないけれど、一緒にいると不思議と退屈しない友人と過ごすような時間が流れる。
推進力があるけれど急かさない、肩を組んで一緒に歩いてくれるような街。
駅前のアーケードは昔ながらの佇まいだけれど若者の姿も目立つ。古着屋の前に設置された灰皿には紙たばこの吸い殻が溢れ、店内のBGMが漏れ聞こえる。そこから細い路地へ入ると、スーパーマーケットとその前に並ぶたくさんの自転車。子供用シートの付いたものも多い。部屋着のような格好で買い物に来ている人たちもいるけれど、それでもどこか高円寺らしいファッションにも見える。
この日もいつもの「儀式」として腕時計を着けていた。セイコーのヴィンテージウォッチの中でも特に気に入っている一本「フジツボVFA」と呼ばれるモデル。VFAは「Very Fine Ajusted」の略。クォーツ技術の黎明期に最高クラスの精度を誇った時計だ。フジツボのような特徴的なフォルムはおそらく温度差による時刻のズレを最小限に抑えるための設計だったのだろう。
グラフィティの描かれた店舗のシャッター、首輪に鈴の付いた野良猫、商店街の中に紛れた住家のベランダには所狭しと洗濯物がかけられている。それは「生活」そのものであると同時にこの街の舞台装置。シャッターチャンスを探して注意深く歩くのではなく、街のリズムに合わせて歩を進め、時折出す足を揃え直すかのようにシャッターを切る。
気の置けない街で気の済むまで写真を撮り歩いたら、賑やかになり始めた居酒屋の店頭を横目に帰路に着く。